ねったいやのよかん
たりぽん(大理 奔)


奉る灯りの夏の星
あまりの暑さに消えかけた
高層雲の秋かすみ
季節を越えて幾たびの
三等星たちが
高圧線をでたらめに弾き
管弦楽も知らないくせに
なにやら口ずさむ
ホオズキ色の教室のうた
懐かしい記憶ばかりを閉じ込めた風船を
星が染み出す夕闇に
今日、ひとつ放つ
するりと手のひらに触れながら
遠くへ消えた指先のように
ためらいも、声もなく
私はそれを忘れることができる
悲しみは重力にひかれるけれど
風船は高層雲のもっと先で
自由に黄道線をつま弾くので
私はもう、しあわせに
ちかづけたのだろうか
祭灯りの街の夜
なるべくたくさんの風船を、と
両手をあげて
からだを軽くしていた
風船を失ってしまったので
重い靴底を減らすために
私は地下鉄へとかえっていく
いいかげんなオーケストラの
ドラムの音ばかり響く
あのねぐらへかえっていく
あしたからの
ねぐらにかえっていく




自由詩 ねったいやのよかん Copyright たりぽん(大理 奔) 2010-08-17 23:52:40
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