やさしいし




きみのし
考えたこともなかったし
その日の空はうそみたいな顔をしていたから
言葉は何も浮かんでこなかった

この物語では
信じられないことが
信じられないほど起こるし
それを告げる声は
いつもあまりにも遠い


怒りを送りつける宛先を探したり
泣きわめくためにせいいっぱいの努力をしたり
どうしようもないことが
どうしようもないほど積み重なっていったけれど
それは誰にでも訪れるし

ベッドは何も語らずに横たわって
待つことしかできないのがぼくらだった



日が沈むころに
きみがやさしい顔をして
紡ぎだしたのは
何かを削りながら生き続けるような
そんな言葉で

それはやさしくなんてなかったけれど
うそみたいにうそが無かったし
それがぼくらにとっての
きみのし
だった




自由詩 やさしいし Copyright  2010-08-11 22:01:36
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