狐座リング状星雲のあなたへ
佐々宝砂

指にはさまれた紙片はガラスの破片のように鋭利に
あなたの皮膚を切っているらしかった
あなたの体液はきっとすこし酸っぱいのだろう
あなたの指を舐めている蛙は
横に広いはずの口を丸めている

いたって事務的な態度
が理想なのだが
理想は理想

ぬるくなってきた珈琲に
ちらほらと混乱の痕跡が浮かぶ

狐座リング状星雲からはるばる来てやったのにとあなたが言う
そんなのしょせん銀河系内部じゃないのと答える
それじゃあ今度はそっちから狐座まで来てみろとあなたが言う

私の髪をカミキリ虫が切り落としてゆく
あなたはそれを止めようとはしない
私の膝には短い髪の毛が蓄積してゆく
あなたの髪にはあかるい陽射しがあたっている
と思ったらそうではなくて
あなたの髪はすっかり白髪になっている

何をしても足りないのだと
わかっているので
何もしないでいる

それを言う必要さえないので
だまっている


自由詩 狐座リング状星雲のあなたへ Copyright 佐々宝砂 2004-10-15 23:10:28
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