裾をめくった
嘉村奈緒



人体模型を誘拐した時
何か 黒いものがその筋肉に付着しているように見えた
今となっては少しだけ思い当たる
下着を見られた 夜だ
あれは





そんなに見られて 恥ずかしくないのか
テトラポットの影に隠れて数秒後の
テトラポット型の目先で裾をめくりあげて
かの夜は燃え上がったぜ、と男はカシャリと錆びた
錆びたプラスチックの向こうで
恥ずかしい裾はめそめそしながら

「あんた ここは塩からいね アンモニア部屋を 思うよ」





片手間で
いつもカーテンが閉められる音が聞こえた。女のスカートはカーテンのようなものだと男は言った。
男の顔は漫画みたいにペラペラで、瞬きをするたびに違う形になっていくのを静かに観察した。
カーテンが開いているときは真昼だった。女も明るいのだろうか。
閉められたり、開けられたりして、忙しないものなのだろうか。女というものは。
それから女のスカートの裾をめくった。わたしが見たもの、あれは、





夜は肥大していって
わたしの部屋は夜になった
手探りで人体模型を引き寄せる
関節と関節の隙間から海の匂いがする
夜な夜な、どこに行くのだ、おまえは
恥ずかしい顔もせず
おまえは、まるで漫画のようだ
おまえは、裾をめくるのか、などと言って
話し掛ける
そうじゃない時は、夜の裾を
めくる



裾をめくりあげるとめそめそし始めるので
女みたいだな
と思う

 


自由詩 裾をめくった Copyright 嘉村奈緒 2010-08-10 02:12:50
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