波紋
たもつ

 
 
水のノートに
垂線を引いていく
印刷された罫線と縦横になって
小さな枡がいくつかできる
溺れないように
慎重に枡に指先を入れてみる
体温より少し低い水の温度が
むかし一緒に寝ていた人の
二の腕の冷たさに似ている
指を動かすと
小さな波紋が他の枡へと
徐々に広がる
今日は見つからない言葉が
いくつかあるので
何も書かずにノートを
そっと閉じる
何度かやって慣れたはずなのに
水滴が数滴こぼれて
濡らすのが好ましくない所を
濡らしてしまう
昨日と違って
外では雨が降っている
黙っていても
音でわかる
 
 


自由詩 波紋 Copyright たもつ 2010-08-09 19:29:19
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