わたしがシャンブロウだったとき
佐々宝砂

そら、なのか
から、なのか
どっちでもいいけど
「宙」と書いて「そら」と読ませるよりも
「空」と書いてなんと読むのかわからない
そんな曖昧さがわたしはすき

そら、だったのか
から、だったのか
どっちでもいいけど
あのときわたしはシャンブロウで
わたしの食べ物が何かくらいちゃんと知ってた
あなたの言葉がわたしに通じないってことも知ってた

からかいからまりからくれない
わたしは髪を赤く染めていたことがあって
わたしの髪は蛇みたいにいつもくねくねで
わたしの瞳は草の緑ではないけれど
わたしの目を覗きこんではだめ
わたしは吸血鬼ではないけれど
わたしのキスを待っていてはだめ
そらごとそらみみそらなみだ

そら、かもしれない
から、かもしれない
夕暮れのそらには今も火星
その赤い光に背を向けてわたしはねむる
わたしはもうシャンブロウでない
わたしの食べ物が何かなんてわからない
わたしの言葉があなたに通じないこともわからない

そら、と唱えて髪を結い
から、と唱えて眼鏡をかけて
わたしは北西のそらに幻の惑星をみる
ごめんね
わたしはもう
シャンブロウじゃないの
あなたがまだ
あなたのまま逃げ遅れているとしても


自由詩 わたしがシャンブロウだったとき Copyright 佐々宝砂 2004-10-15 00:29:08
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