7/26
小原あき



夏の日
僕は夢を見た
冷たい廊下の上で
火照った体を休めながら
ヒトになる夢を見たんだ

僕は
還暦の男のヒトだった
僕は実際に
犬である時も
還暦の頃だったし
何しろ
その年頃のヒトとは
気が合った

還暦の男のヒトになった僕は
墓参りをした
今日は
よく可愛がってくれた
還暦の男のヒトの
命日だった

僕はそのヒトと
五年くらい一緒だった
初めて会った時は
僕のほうが若くて
あのヒトが亡くなる時は
僕のほうが
少し年老いていた

墓には日が照っていて
ヒトになった僕の
禿げた頭にも
容赦なく照っていた

家にあった花を
切ってきて
墓に供えた
ヒトになった僕には
お父ちゃんの声は
聞こえなかったけど
そこにはきっと
いるんだと思った

僕は手を合わせた
ずっとずっと
したかったことだった

お父ちゃんの匂いが
どこかにしないか
いつものとおりに
辺りを嗅いでみたけれど
鼻が鈍くて
匂いはしなかった
それとも
それが一年という時の
長さかもしれなかった

僕は少し泣いた
本当はうんと泣きたかった
そして
もっと早くに
泣いてしまいたかった
みんみん蝉が泣いている中で
お布団に横たわってるお父ちゃんを
みんなが囲んで泣いている
その中で


美味しそうな匂いで
僕は目が覚めた
ご飯の時間
ぐうぐう鳴っている
お腹を抱えて
僕は走った

いつものご飯
だけど
少ししょっぱかった


携帯写真+詩 7/26 Copyright 小原あき 2010-07-26 13:08:01
notebook Home 戻る  過去 未来