立体裁断(連詩)*夏野雨、渡ひろこ、他
たちばなまこと

乗馬パンツを試着する
膝に白い羽毛を見つけ
これにファルコンの綴り
を刺繍してもらう

*

まわるまわるルレットの
太陽
を日付変更線で切り取り
新しい布地と縫い合わせてもらう

*

羅針盤が胎内に作用する
ニードルワークで硬い魂を解す
ピエロになった少年
世界が似合う背中

*

吸って、吐いて
新たな曲線を産むパターン
指先から零れ落ちるカラー
運針は確かな手応えが待つ光へと
密かにいざなう

*

天衣
勇躍する夏の大三角を隠蔽し
無縫
マリンスノウに融合する

滲んだ

*

教壇の隣の
直線縫いミシン
視線をボビンに巻いて
授業が始まる
胸を開いて全ての方向から学べ
center backの記号を
全ての色合いで飾れ

*

ティモレオントランスが
真夜中の胞子を飛ばす
古い生地を縫い合わせて
若い女の子にドレスを作る
芽が出て
膨らみ
優しさが育つ

*

誰が為の祈りか
お針女はカインの刻印を恨まない
明けぬ空を待つ 遺す者 遺される者
まじないは「呪い」と書くことを知る
フロアタムを蹴飛ばすキース・ムーンの叫びは
縫目を見失い リノリュームに木霊する

*

1ミクロンの刺し傷は勲章と
赤の色彩が薄く笑って
布地を染める
地平線を縫い
欠けた月を繕い
企みを隠しきれない
乳房を覆う

*

軍シャツのボタンを外し
喪服のボタンホールは残したまま
弔電とゲリラ詩
母性の因子よ
バティックの少女よ
血統の最北端で誘発する
「敵は本能にアリ」
鉄の味が舌に残る朝焼けよ
「ブルース、オマエも、か
            。」

*

布の回廊を走り抜ける
更紗、リネン、コットンツイル
海底、教室、兵営、暗がりの砂漠に、
夏の自室に
たちあらわれる塔、奪われた曲線
立体裁断

*

明け方の紅が首筋に這い上がる
シャネルを真似て下げた裁ちばさみに
恋占いを刺す
明け方の月が太陽に白く塗られ
届かない場所へ指で尺をとり
クラフト紙に記す
平面から立体へおこされる彼の型は
フリー







*


自由詩 立体裁断(連詩)*夏野雨、渡ひろこ、他 Copyright たちばなまこと 2010-07-17 06:44:22
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