水球のリズム
たちばなまこと

夕立に西日がさす
顕れた私の表皮のように

小さな個室にて
スチールと硝子の板が
点と点で結ばれてゆくのを聴いている
白いシャツの青年が
自転車で脇をゆく
ずぶ濡れの帰り道には
明日へ向かう暖色が
透けた背中ににじむ

あなたはどうだろう
不意に表したり突然に消し去ったり
ゲリラのような動向で
例えば洗濯物を半分だけ
濡らしては過ぎてゆく

大粒の水球が運転席のドアを抜け
打ちつけるリズム
右足のペダルを踏み込んで
ハンドルを弾ませる
男性的で女性的なひとが唄をはじめる
焼けたアスファルトが濡れてゆくにおい
西から東へゆくような
そんな舞に魅せられる

追憶には遠すぎる
魂に知り得てしまった音は
肋骨のすきまを貫いたまま
燃えつづける傷あとには
薬草をすりこみながら西から東へ進め
並木から零れる水球を
檸檬色に向き合いつよく仰ぎながら
男性的で女性的なひとが
舞に魅せられて唄をはじめる
舞に魅せられて唄になりはじめる


自由詩 水球のリズム Copyright たちばなまこと 2010-07-09 17:15:37
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