七夕祭
明楽


「織姫、彦星」

一、

年に一度の逢瀬の日だと地上が先に盛り上がってしまい、天上の二人は今ひとつ盛り上がれない。


二、

毎年「あの時の子よ」と織姫は子供を連れて来るが、どの子も誕生月が微妙に違う。


三、

大勢の好奇の視線に晒されるのが嫌で、時折織姫は彦星との逢瀬を拒む。


四、

毎年、織姫は会えなかった一年間に彦星が浮気をしていたのではないかと疑い、彦星は一晩中かかって弁明している。


五、

地上はあんなに様変わりしたのに自分たちはいまだに機織と牛追いだねと、近頃は二人で溜め息ばかり吐いている。


六、

天帝が随分昔に二人の過ちを許してくれたので本当は同居しているのだが、地上の民が一年に一回しか会えないのだと思い込み続けているため、二人は七夕の日にしか再会出来ていないふりをし続けている。


七、

雨の七夕に宇宙を舞うカササギの存在が、近年NASAの最高機密となっている。



「七月七日の恋人たち」

一、

今日は離れ離れになった恋人と会える日だからと、朝から玄関前で一年前に別れた恋人が出てくるのを待っている。


二、

織姫彦星にあやかろうと七夕に愛を告白したところ、一年に一回しか会えない関係になってしまった。


三、

いつもと変わりない逢瀬のはずなのに、何故か一年後の話ばかりをしてしまう。


四、

天の川を見上げながら散歩をしていた恋人たちが、あちらこちらで溝川に落下し助けを求めている。


五、

一年ぶりに再会した恋人たちは、七センチのぎこちない距離を保ったまま川原で星を眺めている。


六、

七夕の日に「またね」と言い残して死んだ恋人と、毎年三途の川で再会している。


七、

会えなかった一年間で積もり積もった言葉はどれもこれも癒着してしまい、結局夜明けまで無言で過ごした。



「星に願いを」

一、

星に願いをかけようとしたが、どの星も誰かの願いに忙しくて手の空いている星がなかなか見つけられない。


二、

清らかな心の子供が誰もの願いが叶いますようにと願った途端、世界は欲望渦巻く阿鼻叫喚の地獄絵図となった。


三、

たくさんの願いで重みを増し、軌道を逸れた星が地球を目指し接近している。


四、

願うばかりで誰も自分の願いを叶えてくれないと、星は八つ当たりで辺りに金平糖を撒き散らしている。


五、

恵まれない人の願いを叶えようと、その人の元へ星々が流星群となって降り注いでいる。


六、

寛大な星は謙虚で控えめな人のたった一つの願いも、欲張りで傲慢な人のたくさんの願いも分け隔てなく全て叶えるので、貧富の差はいつまでもなくならない。


七、

願う力を自分で叶える力にすればいいと星は提案したが、人類は満場一致で却下した。



「七夕の出来事」

一、

人々の願いを叶える準備が整った星から順に、地球へ向かいはじめている。


二、

一向に願いが叶わないので、星に訊ねると「担当の星が違います」と散々たらい回しにされた挙句に「今年の受付時間は終了しました」と追い返された。


三、

世界平和を星に願うと、各国の軍事施設に次々と隕石が落下しているというニュース速報が流れた。


四、

自立心溢れる子供の「願いは自分で叶えるものだ」という力強い叫びを聞いて、星は存在意義が揺らぎ輝きが弱まった。


五、

願いを叶えるのが億劫になった星は、瞬くことを辞めてしまった。


六、

笹いっぱいに「さようなら」をしたためた短冊をつるして、天の川へ飛び込む。


七、

何も願わず、ただ純粋に星空を眺めている人のために星は輝きを増した。


自由詩 七夕祭 Copyright 明楽 2010-07-07 17:05:47縦
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