生きるひと
恋月 ぴの
昔たってそんな昔じゃない昔
筑豊とかの炭鉱では女のひとも坑内で働いていたらしい
上半身裸で乳房丸出しの腰巻き一枚
薄暗く蒸し暑いヤマの奥底で
気の荒い男衆に混じり
掘り出したばかりの石炭をトロッコで運ぶ後向きさんって呼ばれてた
あまりにも凄いよなあって思うばかしだけど
お金を貯めて何かをしようとか
欲しいものを買おうとか
自分だけのためだったらそんな仕事続けられない気がする
ともに働く夫のため
おなかを空かせ家で待つこどもたちのため
トロッコを押すたびに双の乳房は揺れ
額の汗は流れるに任せ
ときには男衆との痴話話に興じてみたり
総てはあっけらかんと
欠けた前歯を隠そうともせずに
生きているんだって実感に喜びを見出していたのかも
う〜ん、なんとかならないかなぁ
誰かにつけられているような気配に振り向きたくなるぐらい
早々とシャッターを下す商店街はあまりにも寂しい
うっかりと時給につられて転職したバイト先
複雑な人間関係に困惑する毎日で
あの野良猫に猫跨ぎな愚痴のひとつも聞いて欲しくて
蒸し暑すぎる文月のおまんじゅうみたいな月明かりをたどる