ゆり文月
小池房枝

夕方の水が巡って夜前につぼみのたががひとひら外れた

ひとつふたつ互いに互いの花びらが外れてそしてそりかえって咲く

カサブランカ自分で咲いたね信じてはいたけどつぼみに手が出そうだった

ふくらんだつぼみがどうして本当にひらきえるのかやっぱり不思議だ


蝶か何かとらまえたときの両の手を合わせた形に百合が膨らむ

むきたての果物のように滑らかな百合のつぼみが裂けてはじける 

咲く直前つぼみは軽くなるような気がする片手であやしてて気づく


ひとつめの百合は満月に咲きました妹たちもそろそろでしょう

いつつ揃えた指先のように窮屈な形でつぼみの中にいたのね雄蕊

花びらと共におしべもすいと伸びて開いて赤い葯が揺れてる

蕊の先のしずくを舐めてみたいけど顔に花粉がついたら怖いな


抱き上げて涼しいところにうつすとき甘えて花粉つけないで百合
 
虫たちのサグラダファミリア真っ白なカサブランカはソロモンそのもの

単子葉植物のなかで最大の花咲かせつつもたおやかな百合

こんこんと湧き出る匂いの甘やかさ重苦しさに耐えるよろこび


カサブランカいつ咲き終えてもいいからね狂恋のような白き饗宴

カサブランカお疲れ様とねぎらってさいごの花の首を掻く夜

咲き萎れた花びらに君を開かせた水脈の網の目 褐色に浮かぶ
 
夏の花は足が早いねいいことだ咲くべき密度を咲き終えては去る


オトウサンモドキのようだねニックほら、裏庭にユリとユリモドキの花


短歌 ゆり文月 Copyright 小池房枝 2010-07-05 19:20:01
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