はかるべきではない深さと高さのメモメモ
七尾きよし

現実の人生の物語との隔たりは日に日に増していくんだけども、湧きあがってくる妄想はただ湧きあがるために誕生し、そして消えていくものでしかないのだけれども、その残滓は前頭葉の隅っこに確実に積み上げられていく。断片と断片が重なり合っていつの間にか結合し、何か形をなしていく。いびつなちぎれちぎれに積み重なっていったものたちはその初めから終わりまでひたすらいびつな妄想を代弁するための身体を獲得するために前頭葉の一隅に寄生するのだ。寄生虫のように妄想は日に日に成長していくのだった。埋め合わせようのない決して越えることのできない現実と妄想の間にある断崖は日に日に深さを増し、それと比例するように積み上げられていく土嚢に詰まった妄想たちがひゅうひゅう音をたてて奈落の底へと飛んでいく。毎日のお決まりの作業が遂行されることを観察し、また時にはより能率的な方法について意見を述べる第三者然とした者がいる。自らの行為を客観視することなく主体としての自覚をもって行為と一体化するよりも。海苔瓶の中であくせく巣づくりを続けるアリたちの生きざまを面白がって観察することにも慣れて半分ほったらかしにしているようでいて、一日に何度かは覗きこんでにやけることを忘れないような有様のほうが幾分か滑稽さにおいて増している。笑いころげるようなおかしさではなくて、失笑を誘うようでいて半分同情の眼差しで見守られているような、そんな空気感の中で物語は増殖していく。


自由詩 はかるべきではない深さと高さのメモメモ Copyright 七尾きよし 2010-07-04 21:35:09
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