トーキョー
望月 ゆき

頂点はさらに、高さを増す。塔の上に塔を
重ね、そのようにして時代はいつも、賑や
かに葬られていく。足元には、無数のメタ
セコイアが植えられ、手をのばして、空を
仰いでいる。道は、休むことなくつくられ
た。わたしたちが迷わないために。





積み木をくずす所作で、戦争がはじまる。
無邪気に、そのありふれた朝を、穿つ。庭
では、熟れすぎたトマトが朱く弾け、読ま
れることのない朝刊を汚す。子どもたちは
その時も、背中のランドセルをカタカタと
鳴らしながら、走っていただろうか。まっ
すぐ、目の前にのびる道を。





公園のベンチに座って、赤く尖った先端を
眺めていた。長い鬼ごっこの、まだ途中。
笛を鳴らして歩く、豆腐売りの、失くした
左腕は、深い土の底で今も、リヤカーを引
いている。そういえば短距離走が得意だっ
たっけ、と思い出して、すこし笑う。立ち
上がるけれど、纏足をほどこした足は、う
まく歩くことができない。





あらゆるものは、この場所に偏在している。
灯り、富、思想、二酸化炭素、罪。低い周
波数で、ラヂオの電波が、底辺を這う時、
空で、テレヴィジョンの電波は、進路を忘
れる。道があるばっかりに、わたしたちは
しばし、迷う。目印を限りなく淘汰してい
くと、時代からわたしたちが消える。






*『詩と思想』7月号掲載。









自由詩 トーキョー Copyright 望月 ゆき 2010-07-04 00:28:31縦
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