名も無き花
光井 新

 芸術家なんてものは、名前が売れなければ金は無い。人間が生きていくには金が要る。名も無き芸術家は、生きていけない、死んでいくだけ。
 もう駄目だ、と呟いて、自分の意思で死んでいこうとする画家がいた。
 画家は死ぬまで芸術家だった。芸術的に首を吊るのに、丁度良い樹を探し歩いた。もう死ぬ事を決めたのに、あれは枝振りが気に入らない、あれは幹の太さがいまいちだ、などとなかなか気に入る樹は見つからなかった。
 しばらく歩き回って画家は、自分の感性を刺激する樹にとうとう出会う。枝には綺麗な花が咲いていた。その樹花の名前を画家は知らなかったが、名も無き花は一生懸命咲いていた。
 首を吊った勢いで花が散るのを恐れた画家は、首を吊るのをやめにして、その花の絵を描く事にした。


自由詩 名も無き花 Copyright 光井 新 2010-06-30 11:34:46
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