renovation
渡 ひろこ

それは忽然と現れた。
スパニッシュブルーの空を突き刺してそびえ建つ、
研ぎ澄まされた円錐形のオブジェ。
傾斜角75度の強い意志が天を貫いている。
指し示す先はどこまでも高く
その先端から曖昧な輪郭を許さない
パルスを発生している。
芯のないレプリカを嫌う
磨かれたアートの揺るぎない屹立。


視界に入らないようにそっとすり抜けるつもりだった。
通りすがりの。忍び足で。
見つかってはいけない。隙間だらけの核心を。
気づかれぬようにと
畏怖で震える二足歩行がままならない。
そろりとおぼつかない一歩を踏み出す。
自信のない足元は途端につまづき、
思わず「poet」というノイズを吐き出してしまった。


ぐらりと重く傾くオブジェ。
ゆっくりと矛先が回りこちらを振り向く。
厳しい思念。怯えて立ち尽くす私。
鋭い切っ先の標的は定まっている。
目を見開き口を開けたまま叫び声も出せない。
それは躊躇なく爛れた私の患部へと容赦なく突き刺してきた。
突然の抉るような痛烈な衝撃に
神経が麻痺して身体が強張る。
螺旋に回転しながら尚も食い込んでくる先端からは
針のようなパルスが波状的に放たれた。
怠惰が詰まった胎内を破壊していく。

                                      
(もう充分だから許して…)                            

 
串刺しにされて宙に浮いたまま、弱々しく喘ぐ。
ダラリと下がった両の足からは、
濁った緑色のスライムが流れ落ちていく。             
触れずにおいた病巣からの滴り。
長く膿んでいたもの全てが流れ落ちた。                            
        
放心した私を見届けると
含み笑いを残して消えていったオブジェ。
痛みに堪えかねた私はそのままカオスの底に墜落した。              
                                         


真っ暗ながらんどうになった私の内部。                       
  
それでも耳を澄ますと                              
 
化学反応を起こして生まれたわずかな光が                     
 
今静かに闇を照らしてスパークする音が聴こえる。           








自由詩 renovation Copyright 渡 ひろこ 2010-06-29 21:19:36
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