駅前通りの宇宙的考察
橘あまね

うつくしい季節です
赤い花は風に千々に、
報われないとか
叶わないとか
そんな怨み言とはかかわりなく
身を任せてゆきます
昼下がり、ぼくは自ずから
人並みに戦々
立ち向かい蹴散らさなければいけないという
幻影に苦しめられます
体は一つしかなくて
心は弱いのに
望みだけやけに大きい

そんなとき
うつくしい
空を想うのです
痛みとは無縁に

あたらしい部屋に鍵をかけません
遠くから来た人を迎え入れるだけの
それだけの営みですから
通り過ぎていく旅路の
ほんの一部分ですから

大きな連なりをミニチュアにして、
街は栄えてゆきます
土の香りを
喪われるままに任せて
忘れられてゆくことを
怖れるはずもない

時代ごとには
あたらしく森を拓くための
大きな炎があり
近づくまでもなく
弱いたましいたちは焼かれてしまう
逃れようとして
逃れられるものでもなく

膨らんでゆく
孕まれて
膨らんでゆく
つめたい季節に成り代わるころには
かなしみのしみこんで
重たくなった衣服を脱ぎ捨て
月に体をさらす
うつくしい女たち

輝くべき者たちが
光を取り戻して
ありふれたはずの世界から
やがて
誰も見知らぬ
永劫を産み落とした
ぼくたちはそれを永劫と呼ぶけれど
神さまたちを
すべてひっくるめて
奪っていく

気づかないふりで
忙しいあいだに
たいていのものは
入れ替わってしまう
求めていたのにね

誕生の儀式を経て
星を流して
深いところから
いちばん表面に
やってくる
姿を借りてばかりで
真実の道は
未来へと保留されつづける



自由詩 駅前通りの宇宙的考察 Copyright 橘あまね 2010-06-23 22:51:14
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