頬骨
蒼木りん

立ち入り禁止の
義母の部屋に入り込んで
おしっこをしたり
供えたお菓子を引っぱり出して
食べ散らかしたり
犬が悪さをするようになった

酒飲みで我が強い
とてもこども染みた人だった
愛されたい欲求が言動に表れる
わたしは甘えた人間は嫌いだから
見ない 聞かない 話さない

義母が死んだのは
義父さんの命日の次の日で
せっかちな義父さんが
三年と半日生かせて
「もういいべ」と
連れて行ったんだと思う

ユリの花の匂いが嫌いだといっていたから
ユリばかり買って来て
活けてあげよう
わたしはとてつもなく
ユリの匂いが好きだ

早くこの世に見切りを付けて
内臓を貪る獣の正体に戻れば
魂も楽になるだろう
野獣の息子はそのうち
わたしが王様にしてあげよう
ほんとうは無理だけど

目上のたんこぶ
たんこぶも
夜中にひとりで泣いていたんだろう
いたるとことに置いたままの
さびしさのガラクタに囲まれて

お腹に水がたまると
もうだめなんだと
わたしは言えずにいた
顔はもう死人の色だったし
医者は椅子から飛び降りて
見えない匙をなげていたもの

あれから
まだ一ヶ月も経っていないのに
随分時間が過ぎた気がする
故人はけしてしあわせではなかったろう
わたしもしあわせではなかったから

小鬼は
染めた頭のてっぺんから
一本の角を出して
ときどき暴れだす
それでも母であった
あれでも母親だった

いらない苦労をするのは
わたしが生まれつき
柿の木の下で
寝かされていたからだと思う
柿の葉のあまい匂い

わたしは
いまだに
仏壇の遺影の顔を
ちゃんと見れない
喧嘩のときは
おもいきり睨めたのに


自由詩 頬骨 Copyright 蒼木りん 2010-06-22 10:08:01
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