ふるる

まっくらだったのに
その男は普通に部屋に入ってきて
箱を置いていった
その大きさは幻聴に悩む私の音域ほどもあり
身震いする
いく日もほっておいたお風呂の水を
ざぶとかけられた気分

隣に寝ている夫の鼻をつまんでみる
寝ぼけた犬ほどの返事もない

あれあなたの箱でしょう
あんなに大きくて空っぽよ
ううん、うるさいな、ちゃんとゴミに出しとけよ
だってあんなの危ないわ
近所の子が中に入って閉じ込められでもしたら
近所の奥さんが中に入って出てこれなくなりでもしたら

それからしばらくまんじりともせずいたけれど
私は抗いがたく
箱のふちに手をかけて
寝巻きのまま
黄色のお財布も持たずに
そこに入り


まっくらだったのに
その男は普通に部屋に入ってきて
箱を持って行った
夜明け前なので
妻の失踪届けを出すにはまだ
早い


自由詩Copyright ふるる 2010-06-09 09:26:48
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