温度
たもつ

 
 
ワイシャツにアイロンをかけているうちに
見知らぬところまで来てしまった
さっきまでいっしょにいた妻や娘の姿も見えない
どこか淋しい感じのするグラウンドで
赤勝て
白勝て
子どもたちが玉入れを競い合ってる
その真ん中で一人
アイロンをかけ続けている
容赦なく紅白のお手玉が頭や腕にあたる
アイロンをかければかけるほど
ワイシャツは皺だらけになっていく
それでもせっかくかけたのだから、と
皺くちゃになったシャツを
ハンガーにひっかけて吊るしていく
いくらかけてもワイシャツは
山のように積まれ一向に減らない
日が暮れる
沖の方に漁火が見える
もう既に膝のあたりまで海に浸かっている
すっかりくたびれて
このままどこまで行くというのだろう
もしかしたら一生このまま
同じ作業を続けなければならないのではないか
と不安にはなるけれど
自分の一生が明日も続いている、ということには
何の疑念も抱くことなく
時々アイロンの温度を確かめたりする
 
 


自由詩 温度 Copyright たもつ 2010-05-23 21:47:37
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