シナ子
嘉村奈緒

1.

シナ子

今、列車に乗っている
田舎に帰る
トンネルに入るとヒューィって音がこだまするの
それは列車の車輪の音
昔よく吹いていた草笛にも
車掌さんが切符を切る音にも似てる
列車がトンネルを抜けると
田舎はもうなかったの
口をとがらせて鳴らそうとしたのだけど
思うようにいかない
何てことないよ
僕らは草笛の吹き方を忘れたの
ヒューィ ヒューィ
ューィ
手の中の切符は、サリサリというの




2.

地に突き刺して。ご覧、シナ子が降るよ


シナ子の腹に映える六面の千種


スカートの下のシナ子


くゆるシナ子もくゆるシナ子も、トマトを含んで哀しんでたよ


みずたまシナ子、まぶたの裏の南でわずかな集落が


湿る日に、縞シナ子の声で瑠璃をよんだ


あなたの蓄積されたシナ子は、憧れる曲線を描きます


部屋の隅の 烏合の菌糸に巻かれてシナ子病


シナ子なシナ子で、シナ子してしまうシナ子




穏やかな




3.


ねえ、シナ子
世界は美しいと人は言うのだけれど
僕はよくわからないし
シナ子とニッキを舐めている方がいい
平日の人気のない公園で
ぼんやりとしながら舐めるニッキは格別なんだ
季節ごとに咲く花も覚えた
楽しく辿り着ける道順も
本当は
草ぞりもできればきっと世界は美しくなる
シナ子 行こう
シナ子の分のニッキも用意して
きっと気にいる
だからシナ子、


シナ子




4.






シナ子、 どこ?






5.


町内地図を広げて
順繰りに数字をふっていった
シナ子の好きな場所は僕の好きな場所
ニッキを持っていかなくちゃ
近くの路地にはよく猫が寝てる
猫のヒゲの先が光ってる
シナ子、そんなところにいたんだね
頭上で雲が光ってる
子どもがおはじきで遊んでる
風がぐるりと取り囲む
汽笛の音がする (ヒューィ)
水をまくホースの先を潰すこと
町で一番大きい時計のからくりを知ること
シナ子
シナ子はいろいろなところにいるんだね





シナ子のシナ子
週末田舎に帰るんだ
手の中でサリサリとするシナ子
ヒューィと鳴るシナ子

シナ子




シナ子、
列車の窓にうつるシナ子は
口をとがらせて草笛を思い出そうとしてる
穏やかな日和に
ニッキを持って出かけよう
あの公園で
草笛を聞かせてあげる
そうしてぼんやりとしながら舐めるニッキは
格別だろうから

きっと、世界は美しいんだ



自由詩 シナ子 Copyright 嘉村奈緒 2004-10-08 19:33:08
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