書物の家
あおば

                 100519






満員電車で饅頭を運ぶときは
潰されないように気をつけなさい
あたりまえの注意を背に
饅頭を詰めた蒸籠を運ぶ

人でなしといわれようが
饅頭が大事と
二人分の席を確保したい
油断無く隙を窺いながら
ドアが開くと同時に飛び込んで
斜め前の席を確保する
二人前は無理で
身体の大きいのが割り込んできたから
饅頭入りの蒸籠が苦しそうな息を吐く
安全弁など無いから
限界を超えたら
蓋を持ち上げて
饅頭が丸い頭を覗かせるのが
目に見えるようだ
息を止めて
蒸籠が落ち着くのを待つうちに
電車は次第にスピードを上げ
左右に車体を揺すり
鉄橋に向かって
大きくカーブを切る
その頃には図体の大きいのもしっかりと席を確保したので
蒸籠は前よりも窮屈になったのだが
大きく揺れるのが面白いのか
鉄橋からの景色が気に入ったのか
饅頭は
眠ったように静かになった

駅前の書店に飛び込むと
顔見知りの人たちが
新刊書を手にレジで列を作っている
待たされるのが嫌だと顔に書いてある
ここでも饅頭をおひとつ如何ですかとは切り出しにくく
店の外で
みんなが出て来るのを待つ








「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、小川 葉さん。




自由詩 書物の家 Copyright あおば 2010-05-19 13:46:19
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