手首のソネット
佐々宝砂

手首を切り落とす、
という妄想が頭から離れない。
私の手首を切り落とすのではない。
最愛の人の手首を切り落とすのである。

切り口はなるべくすっぱりと潔いのがよい。
切れ味よく骨まで切り落とせるのは、
鉈だろうか、出刃包丁だろうか。
チェーンソーも捨てがたいがあの切り口はそそらない。

すっぱりと切り落としたら、
傷口を丹念に消毒し、
もし消毒薬がなかったら焼け火箸で焼き潰し、

私だけを頼って暮らすそのひとの、
切り株のような手首を、
私は優しくやさしく包帯で巻いてあげるのだ。


自由詩 手首のソネット Copyright 佐々宝砂 2010-05-19 01:05:04
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