蒼葬 / ****'02
小野 一縷





鉛色の岸辺


蒼い木馬が燃えている 
塩辛く 蝕まれた 薄い身体を 震わせて 
揺れている 
錫色に泡立った 波頭の拍子を 執りながら 


砂の一粒一粒は 鋭く 足の裏を 青く 有害に刺激する
誰かが作った 砂城が 鈍く 融ける 角砂糖のように 崩れてゆく 


一羽 白い鳥が 飛び立つ 
遥か
遠い 小さな 朝陽でも 夕陽でもない 黒い太陽に 滲んでゆく


紅い月明りが 海面を血の色に 黒く染めている
その月は 大きく 空の頂を 被っている


麻痺した皮膚に 微かに感じる 体毛に結晶した 飛沫は
刺々しく 肉に 十字を 幾重にも 刻み込む


波打際に 沢山の小瓶が 群れなして 打ち揚げられる 
中身は 焼け焦げた詩片 白 灰 黒 枯れた言葉の残骸


遠く 続く 海岸の彼方にある 教会から 聞こえる
暗い 鐘の音は 濁った 虹色の 雲を呼び 重い眩暈を 誘いだす


地下の 白と黒の 格子模様の 広大な霊廟を 吹き抜ける
赤黒く病んだ 風が 潮風に 生ぬるく 混じり合う 瑪瑙模様


眠る
暗く くすんだ魂を 病んだ肺で包み
焼けた両腕で抱いて 
痩せた 頬を 湿った砂に 預けて


夢見る
黒い水平線の 向こう
名も知れぬ国の 無名の港 
細く 横たわり 缺けた 貝殻に くちづけて


静かに 
鬣の白い炎を靡かせて
木馬が蒼く揺れている





自由詩 蒼葬 / ****'02 Copyright 小野 一縷 2010-05-10 20:05:52
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