長い家出
はだいろ


40歳になったので
煙草を覚えることにした
からだにわるいことをなにもしてこなかったから
何だか申し訳ないような気がして
ベランダで星をみた
あおい煙が目にしみた
すこしもおいしくはなかったけれど
こころは軽くなっていく


40歳になったので
おんなと遊ぶことにした
道徳的にいけないことをなにもしてこなかったから
何だかもったいないような気がして
赤信号で手をつないだ
夜のまたたきだった
ちっともさみしくはなかったけれど
こころは小さくなっていく


40歳になったので
厭世的になることにした
無断遅刻も無断欠勤もしたことがなかったから
何だかばかばかしいような気がして
定期券の駅を通り過ぎて
海まで乗り継いでった
ちっともぜつぼうてきではなかったけれど
こころはうすくなっていく


40歳になったら
なんて
だれも考えたりはしないだろう
出会うべき人にもし出会えていたら
きっと
気がついたらおじいさんになれていたに
ちがいないのに
きっと
ちがいないのに


40歳になったので
また詩を書いてみることにした
じぶんをかたちにすることを何もしてこなかったから
何だか長い家出のような気がして
恋をしたら恋のうたを
失恋したら失恋のうたを
ちっとも恋なんてしてないけれど
こころはあかくなっていく








自由詩 長い家出 Copyright はだいろ 2010-05-09 21:02:59
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