生きて、死にいくものたち
小原あき


キコキコ、と
鳴る音で目が覚めた
薄目を開けて見ると
夫が一生懸命に
わたしのねじを巻き戻している

なにをしているの? 、と
聞くと
どき、とした顔で
こちらを見る

大丈夫、わたしも回したことあるから、と
言ったら
安心して
また
キコキコ、と
わたしのねじを回し始めた

わたしが夫のねじを
初めて見つけたのは
結婚してすぐだった

それからは
毎日まいにち
必死に巻き戻した
巻き戻された夫は
危うく
年下であるわたしの年齢よりも
年下になるところだった

なぜあんなに
一心不乱に巻き戻していたのか

さすがにわたしよりも
若くなることはまずいので
とりあえずやめたけれど
それからしばらくは
禁断症状が出て
布団の中でガタガタ、と
震えていた

山を越えれば
治まるもので
あれからは一度もやっていない

どうしよう
夫はどこまで
わたしを巻き戻すつもりだろう

もともと年下なのだから
わたしみたいに
歯止めがきかないかもしれない

キコキコ、と
回す夫にわたしは
うるさくて眠れないから、やめてくれない、と
言った

布団の中でガタガタ、と
震える夫を
強く強く抱きしめて
大丈夫、大丈夫、と
それだけしか
言えなかった




自由詩 生きて、死にいくものたち Copyright 小原あき 2010-04-28 22:24:00縦
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