銀河鉄道
月乃助


林檎のかおりがする 天の河
もう随分と走ってきた
星へのひとり旅

白十字も恐竜の化石の海岸も通り越し
鳥を獲る人は、とうに降りてしまったし
銀のすすきの野をみるために
列車の窓を開け放ったり、

都合の良い
好きなときにこの列車に乗り込んで 
ひとり旅人になれば 乗客のふりをしてみる

小さな体を寄り添う
姉弟の笑顔に、友達になって話をしたり
二人を世話する青年の 客船の話に耳をかたむければ
凍える氷の海に涙をながす

知らぬ間に通り過ぎる星々のはしに 
焼けたさそりの命をささげる悔悟があろうと、
そのとげを想い、天の河に輝く赤い星を見つめる

どこまでも行くことが許されるなら
乗客のふりをすることに疲れてしまい
今はもう列車から降りたくなっても
そのときは、
旅情はなく それ以上進むことができなくなって
夢ではないマゼラン星雲の星々のすぐ傍らに
博士のくれたコインの光りがあったとしても
それに、手をのばせずにいた

友達を助けようと水に飛び込んだカムパネルラも
いつの間にか列車から消えてしまうのを知りながら、
声をかけずにただじっと、
暗い窓から外ばかり眺めていた

物語りは、そこで終わるはずなのに

違うのです
私は、この列車にいつも妹を見に来る
会いにではなくて、その姿を垣間見るために
好きだった林檎を手にして座っているその背を
少し遠くの席から見つめる
それがこの列車の役目だったのです
顔を合わせれば、きっと
星を取ってくれとせがむお前に
私は何もできずにいることがつらくて、
ただ、それを逃れるために下を向きながら列車に揺られる
どうしてかホタルの明かりを化石にしたような星の光りの中で、
お前が笑っているのが分かるのです
本を閉じようとも、その笑顔は
暗い闇の中に残されてわたしを灯すように
心の中に浮かんでは
取り残されたまま停車場のようなベランダの
その上から遠くに見える丘の方に
下りてくるはずの列車をまっていたりするのです、
星の降る夜、ケンタウルスの祭りの
人の声が少しばかり響きわたる夜
手をさしだしながら







自由詩 銀河鉄道 Copyright 月乃助 2010-04-27 06:18:03
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