泣いていいよ
吉岡ペペロ

ぼくは泣いていた
川端康成の伊豆の踊り子にでてくる
それは涙ではなかった
もっと肉に近かった
もっと欲に近かった
藤沢周平の物語にでてくるそれは涙だった
育ての親と契ってしまった娘がいた


鉱物のようなひかりが
宇宙を旅するひかりが
引力や重力を気にしながら
風になって運ばれていた
遠くから鈴のような音色がきこえていた
ぼくは風はひかりはそこに届こうとしていた
それは性的緊張を煮詰めてゆくような作業だった

もっともっと
もっともっと
もっともっと

もっともっと
もっともっと

もっともっと
もっともっと
もっともっと

そしてぼくは風はひかりは鈴の音色に届いた
届いたらおまえの絶頂の声がした
ぼくは肉に引き戻された
射精がしばらく鳴りやまなかった
おまえはぼくが風がひかりが近づいてきて
一瞬にしてさらわれてしまったらしかった


ぼくは泣いていた
川端康成の伊豆の踊り子にでてくる
それは涙ではなかった
もっと肉に近かった
もっと欲に近かった
それは藤沢周平の物語にでてくる涙だった
娘を嫁がせた男は若い女に騙され零落した







自由詩 泣いていいよ Copyright 吉岡ペペロ 2010-04-24 10:24:53
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