人形と歩く
ヨルノテガム












 唇の裂け目から
 こぼれ落ちゆく食べカスやら幽霊やら、
 その一部始終をキャッチする


 雑踏の肩と肩とをすり抜けていくのはジュゴン、
 あの手触りは人魚、ダッチワイフのような
 くち
   の
    あいた
       「人形」の、
         生まれ変わりではないかと
        思える
      『或る女』が
    制服を着て
   働いて
 いた


 わたしは恋をすると目の色が変わるので
 それがよく伝わるよう女の行動を追った
 わたしは生まれたばかりのヒヨコのような
 気持ち(女を想う)になった

  花を抱くと
  冷や奴のごとく壊れ
  花を抱くと
  毎日が嘘のように
  無常に消えて無くなり

 (そう望んだ)

 (そう言えばわたしは花が好きではなかった)

  綿を抱く
  水を抱く
  波紋を抱く

  わたしは軽快な日々を過ごし
  女の名前も知らぬまま
  無造作に開きっ放しの
  女の唇の暗い奥へと隠れる

  *

  女の髪が伸びた

  *

  雨の日の夜、天の川がシャラシャラとまぶたに浮かび
  森林の耳澄まし、欠伸の無い夢世界、せめて
  冷たい女の手の膨張、拡大する唇と躯を感じ
  この密度の正体は
  綿(綿?
  正体は水(水?
  正体は波紋(波紋?
  一分、2分、3分
  ある時、わたしは好きだという想いを言い募る
 「好きです、アナタ(綿)」
 「好きになりましたアナタを(水を)」
 「好きなひと居ますか?わたしは
  アナタ(波紋)が好きなのです!」

  続くリピートくり返しに
  ちょうど2分50秒ぐらいで女は返答を返すべく
  開きっ放しの口から

  ビユゥゥゥゥゥ〜〜〜〜〜〜
  ブビユゥゥゥゥゥ〜〜〜〜〜〜
  ブブビユゥゥゥゥゥ〜〜〜〜〜〜  

  ・銀河の秘密を解きなさい
  ・おしべとめしべの図解でも見て興奮なさい
  ・太鼓を叩き太古を感じさせておくれ
  ・ワタシの微生物として働きなさい
  ・車カーセックスしながら世界を旅して
   冒険しましょう
  ・欲情を全て受けとめなさい

 
 とまあ
 こんなことを丸々ひっくるめて
 暗闇に果ては吸いつくされてしまった、ブラックホール。
 暗黒星の中 わたしは(まるで)意志のない女の、
 食欲もない、排泄もない呆然たる映画を回していた
 しかし彼女は歩くことだけ止めはしなかった
 景色から景色へ
 茫洋から茫洋へ
 ただ彼女が歩き動いていくのが
 つまるところわたしの楽しみであった

 女は臆することなく
 はじめまして
 次の日も はじめまして
 次の日も次の日も
 はじめまして
 をくり返し
 続いて音声なく喋る女の口元を見つめていると
 『・・・・・・・ジ・・・・・・・・・

  ・・・・・・・・・ゴ・・・・・・・

  ・・・・クッっ・・・・・・・・・・』
 という読唇を得た

 女は笑い、それでもわたしはワクワクしている

 *

 女の陶磁器の瞳に
 
 男の虹は遠く奮える

 もんどり打って遠く奮える

(銀河は溢れ)

 銀河の正体が涙であるとすれば

(銀河こそ溢れ)

 一滴は地球へと落ちてくる


 *


 アナタが今の状況から変容を望むとき

 そこには「人」がいるだろう

 アナタが求めるパーツは

 ワタシかもしれないし

 ワタシが求めるパーツはアナタ

 
















自由詩 人形と歩く Copyright ヨルノテガム 2010-04-17 00:33:31
notebook Home 戻る