デリケートな惑星



夜遅く 家に帰る
澄んだ夜空 揺れる花々
風を切って 月に話しかける
猫が鳴いてる部屋に着く

鍵を開ける カチャリと響いた
隣の部屋にも 上下の住人にも
わかるくらいに静かに響いた
僕の帰宅が響き渡った

だけど 誰も居ない
もう慣れたよ 真っ暗な部屋のお出迎え
手探りで明かりのスイッチを探すのも
つまづかないようにそっと忍び足で歩くのも




目が覚めると
朝日がやけにまぶしいんだ
カーテンからのぞく空
色んなものに遮られて
ここからじゃ 切り取られたように
うまく見えないな

ケータイを探す
テレビをつけて
パソコンを立ち上げて
眠れなかった昨日を後悔しながら
時計とカレンダーを交互に見つめ
今日を探して
ただぼんやりとする
溜まっている留守電のボタンを
意を決して押してみた
流れてくる尖った声に
何度も深いため息をついた





電話はかかってこなくていい
今日は休日
僕は 誰にも撃たれない





ほんの小さな石ころでさえ
乗り越えられないでいるんだ僕は
うずくまって
考え込んで
岩のように動かない
誰も評価しないけれども
それはとても大切な仕事だと
自分自身に言い聞かせる


  HEY! YOU!
  そんなことで悩まなくていい
  そんなことで悩まなくていいんだよ
  さあ!


ラジオから流れてくるいつもの声が
僕を安心させた







何もしていないわけじゃない
僕はそう言い聞かせた
そう言い聞かせて
突然 どこまでも歩き出した
深夜の川沿いから
繁華街の果てに至るまで
僕は僕に似て非なる人々に
次から次へと
出会う度に嫌悪した
やがて避け始めて
いたずらに笑い始めた


  HEY! YOU!
  そんなことで
  おろそかにしていてはいけない
  そんなことで
  おろそかにしていてはいけないんだよ
  さあ!


流れてくるラジオの
ボリュームが急に上がった








牢獄のような部屋で
閉塞した空気を肺から心臓まで
めいっぱいに吸って
脳みそから何から
ああ
半端なくやられてしまった

もう何も信じない
考えないよ

だけど感覚は鋭さを増して
飛び込んでくるのは
見るも無残な景色ばかりだ
まぶしすぎる光
響き渡る物音
僕は僕自身を突き刺し始めた



  HEY! YOU!
  そんなことで
  思いつめないでくれ
  そんなことで
  思いつめないでほしいんだよ!
  さあ!



愛すべきものは 
ああ もうそんなこと
考えなくてもいい 
僕はただもう
言葉にならない
見えない不安に押し潰されて
誰にも知られずに
このまま消えていけばいい



積み上げた映像が瓦礫のように崩れ落ちても
頭が割れるほど音楽があふれ出しても


ああ
もう そんなに
力いっぱいにしがみついて
眠れない夜を
すごしたくない


安定剤のように浸りきっていた
まるでちゃちな
ゲーム世界さ
吐いて捨てるほどに積み上げたのに
一瞬で消えていくただのデータファイル
音を立てて崩れていくのは
早くて


ラジオが最大限に叫ぶ


  HEY! YOU!
  君が思っているほど
  世界はかしこまって迎えてはくれない
  いいかい
  君が思っているほど
  世界はそんなに
  立派な出迎えはしてくれないんだ


  だから ねえ
  そんなことで思いつめないで
  そんなことで思いつめないでよ

  そんなことで思い悩まないで
  そんなことで思い悩まないでよ
  さあ!


  世界なんて気ままなものさ!
  こんなことは大した問題じゃない
  君はただ 
  さらっと流れてきたものを
  さらっと流し返してやればいいだけさ


  微笑みを忘れないでいれば  
  愛なんてどこにでもあるものさ
  いつだって
  感謝と謝罪は忘れずに
  そうだよ
  いつも通りの君でいいのさ

  だから ねえ
  そんなことで
  思いつめないでよ
  そんなことで
  思いつめないでよ

    

ラジオを消し
カーテンを引いて
僕は ゆっくりと窓を開けた
空気を吸う 
長くさわやかに
いつまでもいつまでも
深い呼吸をし続けた


鳥が飛んだ
空が輝いた
抜けるように鮮やかな青が
降ってくる


僕は部屋を飛び出して行った
抜けるように
青い袋を捕まえて


ツタヤに延長料金を払いに行った




自由詩 デリケートな惑星 Copyright  2010-04-13 00:46:24
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