16
mizunomadoka


死んだ人の遺したそれは、決して起こらなかった何かを思わせる。
それは瞳に触れる直前に消え、冬のようにそこにある。
私はガラス窓に息を吹きかける。
そしてただ消えるのを待つ。向かいアパートのカーテンが光っている。
これからネットでチケットを買って、タクシーを呼ぼう。
パスポートと財布があればなんとかなる。コートを着て
空港のラウンジで朝を待って。冬を
置き去りにして

どんなに無茶をしても、一度に失うのはひとつだけ。
最初から最後までの人生に人々は今も生き続けている。
過去と未来で、ゆっくりとケトルが蒸気をあげる。

会えなくても残っている
私の中の何かがこう問いかける。
私たちはタイムマシンだと。



自由詩 16 Copyright mizunomadoka 2010-04-06 01:22:55
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