レビュー 適切な世界の適切ならざる私 / 文月悠光さん
露崎

どうも!ショートレビューをかいてる者です。

このあいだ用事のついでに新宿へ寄って文月さんの詩集を買ってきました。
「適切な世界の適切ならざる私」は、文月悠光さんの中原中也賞受賞作です。
せっかくなので一読した印象をかんたんにレビュー。



 適切な世界の適切ならざる私 / 文月悠光さん
 


「ふつうの文庫本の厚さくらいなのに2000円か…」という器のちっちゃい
ためらいはあったものの、これがなかなか読みごたえがありました。ひとつひ
とつの作品は長めのものが多く、詩は速読に向かないということもあって詩に
ふれたことのないふつうの人が読み切るには時間と集中力が必要かな。わたし
は10日にわけてゆっくり読みました。

この本のおもしろいところは、作中の「私」が異様な存在感をはなっていると
ころだとおもう。タイトルにも登場しているように、とにかく「私」が色々な
作品に顔をだしそのたびに姿を変えてゆく。こんなに「私」を意識させられる
と、だんだん「私」がどんなやつなのか理解したくなってきて、今回はきみ、
どんなことを思うんだい?と考えつつ読んだりして、おもしろかった。これほ
ど「私」をしつこく強調した作品群はあまりないのではないか。スーパー自意
識をそこにみました。

また、10代のころを連想するようなモチーフやテーマが多く収録されていて
本としてのまとまりはとてもよかった。ただ、10代女子を取り扱っているわ
りに、文体はひじょうにこなれているし、言葉選びもとがらず、流暢なんです
よね。乱暴な部分も、整頓された荒っぽさの範囲におさまっているようにみえ
る。著者が現代詩フォーラムの会員だったときからおもっていたことですが取
り扱うテーマやモチーフ、と、手法、のミスマッチさが、文月さんの変な魅力
の鍵になっているのではないかとおもう。

作品単位だとかならずどこかに印象的な描写やフレーズがあって、クリティカ
ルなつかみがある。「横断歩道」では おりてこいよ、ことば。 の力強さに
圧倒されるし、『私』の 私は私を孕まなくてはならないのだ。 なんて危険
なほど圧力のある一行でびっくりする。詩をたのしむ上でまず足がかりとなっ
てゆくのは、こういった、魅力的な一行であることが多いとおもいます。この
本に限らず、まずは「好きな言葉」を追いかける、というのは詩になじみがな
い人におすすめしたい読み方です。

作者の仕事をこれからもフォローしていくかはちょっと微妙なところですがこ
の一冊はチェックしても損はないんじゃないでしょうか。なにせキュートな女
子がこんなすごい本を作り出してしまう。そのパワーだけで、ぼくはグッとき
てしまった。よかったです。



散文(批評随筆小説等) レビュー 適切な世界の適切ならざる私 / 文月悠光さん Copyright 露崎 2010-03-31 04:32:29
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