創書日和【証】立証
大村 浩一


  女たち二人が男に言い立てている−−

女1:その言葉があなたのものである証を示しなさい

女2:言葉はあなたのためにあるのではない

女1:あなたが体験したものはあなたが体験したものではない

女2:あなたの言葉が体験したもの
   あなたの体験そのものはあなたの中に留まり
   決してあなた自身によって誰かに体験されたりはしない

女1:その言葉はあなたのために書かれたのではない
   遠くの誰かが誰かに あるいは誰かが自分のために書いた

女2:だから私たちは読まなければならない
   私にも分かるものだとして

女1:それが言葉

女2:そこに無限の誤解がある

女1:そもそもあなたは何かを書いていたのか

女2:書いたものがあなたのものである証はあるか

女1:あなたは花 と書いた

女2:あなたは花 と書いた

女1:花を見たから書いたのか

女2:違う書けばそこに花は現れる

女1:それはあなたの言う花で

女2:別のひとが口にする花 とは違う

女1:語彙に特徴がある

女2:語彙には限りがある

女1:署名がある

女2:誰かが似せて書いたのかもしれない

女1:筆致がある

女2:筆致をなくしたからこそここまで届いた
   Fontになったからここに届いたのではないか

女1:根拠は何もない

女2:暗い箱のなかから届いた

女1:違う誰かの言葉だったのかも知れない

女2:私の言葉だったのかも知れない

女1:その言葉はあなたの中で孵って遠くへ行った

女2:その言葉は遠くから来てあなたの中で孵った

女1:誰の花なんだろう

女2:あなたは花 と書いた



2010/3/29
大村浩一


自由詩 創書日和【証】立証 Copyright 大村 浩一 2010-03-30 22:12:16
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