大庭園
片野晃司


庭園を吹き渡る気流に乗って山脈を越えると
なだらかに広がる山腹の緑の森と
森に囲まれた湖
そして川があり滝があり
庭園を巡る園路は地形に沿って這い回り
緑の平原は地平まで広がり
その地平の先には薄暗く暗い海
その先に島がありまた海があり
その先にもさらにこの庭園は広がっているのだった
わたしたちは
この庭園で生まれ庭園で出会い
少年であり少女であり
手をつないで駆け回り
泥にまみれ
川を泳いで渡り
花を摘んで髪に飾り
夜は抱き合って眠り
園路の曲がり角で また分かれ道の真ん中で
ときには庭園を巡るひとの足元で
いつでも互いの性器に触れることができた
道すがら
木陰の苔の上へ子を産み落とし
それらが成長して
わたしたちは少年であり少女であり
わたしたちはあまくやわらかな皮膚につつまれてみずみずしく
猛禽にとっては格好の餌であった
わたしたちは
たやすくその白い皮膚を脱ぎ捨て
捕食の歓びとともに舞い上がり
猛禽の血となり肉となり
その広大な庭園の一角を眺めることができた
川に入れば魚の餌となって海へ下ることもできた
獣の肉となって遠くまで駆けることも
地に腐り巨樹となって森を見渡すこともできた
そうした快楽の繰り返しの先に
ひとがけっして生き抜くことのできぬ季節があり
わたしたちすべてが
わたしたちをかたちづくる粒子ひとつひとつが散逸し
愛するひとも親も子も兄弟もわからなくなり
それはそういうしくみなのだった
その季節のあとで
わたしたちはまた出会いなおし
わたしたちは少年であり少女であり
ひとがけっして生き抜くことのできぬ季節があり
その季節の先にもさらにこの庭園は続いているのだった



(詩誌「ガニメデ」vol.44 2008年12月)



自由詩 大庭園 Copyright 片野晃司 2010-03-24 19:39:40
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