愛人狩り
山田せばすちゃん

そこかしこで俺の愛人ちゃん、俺の愛人ちゃんと書き散らしたおかげで
今度愛人比べをしようぜ、日時は10月の10日、場所は京都のぽえざる会場、
くれぐれも逃げたりなんかするなよ、と
見ず知らずの詩人から私信で挑戦状が届いた
挑戦されたからには受けて立たずばなるまい
それであわてて俺は今夜から
愛人ちゃんの調達に出かけなければならない破目になったのだ

実は本当は俺には愛人ちゃんなんてもんはただの一人もいなくって
結婚この方十数年、妻一筋に愛情を注いできたりしたもんだから
おかげで子供は小学校六年生を頭にして
きちんと計算どおりに三つ違いで三人いるのみならず
計算違いで来年の春には四人目が生まれてしまうという
おまけに銀行の口車に乗せられてほいと1000万円借りてしまった
このなにかと物心ともに大変な時期に
どこでどうやって愛人ちゃんを調達すればいいのだ

とりあえず現代詩フォーラムの知り合いという知り合いに
誰か愛人ちゃんを知らないか、と声をかけてみるけれど
誰もどこに行けば愛人ちゃんを得られるのか知らないという
まったく以ってこういう肝心な時に
詩人というのは世間知らずで頼りにならんのだと
日ごろ自分を詩人だと僭称してることは棚にあげて
ちょっとばかりモニターの前で憤慨して見せたりもするのだが
それどころではなく愛人ちゃんはどこにいるのだ

それでも中には聞きかじりの知識を披露して
愛人ちゃんというのはオフィスラブとセットのものじゃないのかなどと
示唆してくれるやつもいたりもするのだが
そもそも零細そもそも今や風前の灯の俺の会社には
うちの妻以外に女性がいなかったりするので
身重の妻を愛人ちゃんにするほど
俺は倒錯していないはずだと妙な自負を持ってみたりするのだが
それどころではなく愛人ちゃんを捜さねばならないのだ

ならば出会い系掲示板はどうだと
飲み友達の中小企業経営(二代目のバカ社長)が
自分がそれで何度も痛い目にあっているのを言わないまま
たった一回だけどこかの人妻ちゃんとホテルにしけこんだのを
あとでクラミジアを伝染されたのも内緒にしたまま
鬼の首とったみたいに吹聴しやがったのだが
あいにく俺が探しているのは
援助交際もとめてる小娘でもなければ
旦那にほっとかれて不満のたまった人妻でもなく
まごうかたなき愛人ちゃん、純粋なる愛人ちゃん
一点の曇りなき愛人ちゃんだったりするのだ

愛人ちゃんはどこだ
愛人ちゃんはどこだ
見知らぬ詩人との愛人比べに勝てるような
どこに出しても恥ずかしくない愛人ちゃんはどこにいるのだ

仕方がないので
何でわしがこんなことせねばならんのや、わしは詩集を売りに来たのにと
不満で口を尖らせるわが盟友佐々宝砂に
うるさい、協力しなければお前を愛人ちゃんだということにして
その旨世間に公表するぞ、と
恐喝まがいの言辞で脅しを一発入れてから
網の片一方を持たせて
もう片一方を俺が持って
20メートル離れてからせーの、で一斉に駆け出して
ぽえざるの会場中を地引網よろしくさらってみせることにするので
当日ぽえざるに来場される婦女子の方々には
くれぐれもお洒落してできれば下着は新しいものにとっかえて
やって来るようにと
一応お願いだけはしておくことにする


自由詩 愛人狩り Copyright 山田せばすちゃん 2004-10-01 02:56:33
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