どどどどどど
大村 浩一

 ヒトはなんである種のコトについて、自分で失敗するまで学ばないのであろ
うか。他人の失敗は笑うクセに。
 大した事ではない。蛇口のことである。

 小学校の頃。今は亡き親父が、風呂釜のガス管を、ねじれないように二股の
別の口に付け直した。なのにそれをよく分からない母が大気圧開放のほうのコ
ックを開けて点火してしまい、風呂釜のある台所の土間から、トツジョ高さ2
メートルほどの火柱が「どぉ〜〜」と噴き上がるという椿事が起きた。
「ア〜レ〜、これどーなってるのおおお」(原文のまま)
 と絶叫する母に、どどどと駆けつけた親父が冷静にコックを閉じて事なきを
得た。

 就職2年目の頃。会社の寮の風呂で入浴中に、同じ精機サービス部の後輩が
蛇口の調子がおかしいと、何やらがちゃがちゃやっていた。
「お前サービスマンなんだから、そのくらい直せよ」と私がけしかけたので、
彼がむきになって、なおもがちゃがちゃやっていると、突然ハンドルの部分が
はじけ飛び「どどどどどど」とお湯が高さ2メートルほど噴き出した。
 どどどと飛んで来た寮の舎監さんと入れ違いに、桶で格闘する後輩を残して
コソコソ風呂場を逃げ出した私。後日、当然のように謝らなかった。(笑)

 そして先日、8月の末。登戸から中野島への引越しを終えた大村家では、無
理置きした7kg級重洗濯機にホースが繋ぐために、蛇口を付け直そうという事
になった。
 まず古い長くて邪魔な蛇口を外そうと、私は玄関前に2つ並んだ水道のフタ
の、手前のほうの元栓を我が家のものと思い定め、これを閉じると洗い場の古
い蛇口を外しにかかった。この時なんで、チョット蛇口を開けてみて水が出な
いか確かめる、といったキホン的な事を思いつかなかったものか。
 もしも水が漏れだしたらすぐ止められるようにと、慎重に緩めていった積り
だったのだが、与圧された水の力というものを、私は甘く見ていた。

 ポン。どどどどどど。
 手応えが無くなったシュンカン水が噴き出し、慌てて蛇口を付け直そうにも
水圧で定まらない。ぷしゃああと溢れる水を浴びながらワタシは叫んだ。
「もとこぉ〜〜、早く来てぇぇ」(原文ママ)
「何やって…、うわぁぁ!」
「早く早く止めて、表の元栓、奥のほうぅ」
 危機に陥るほど冷静になる、と普段から豪語する妻もとこさすがにクール、
忽ち表に出ると元栓をピタリ。噴出から15秒ほどで水は止まった。

 床に溢れたのがそれほどの水量では無かったため、洗濯したばっかりのバス
タオルを全滅させる程度で後始末は幸い済んだのだが、これが2階だったらど
うするの床下に漏れたら全部弁償しなきゃなんないのよまたお金かかるでしょ
う、とキーキー怒る妻もとこの前で、まるで絵に描いた様な失敗をやらかした
自分がおかしくて、私はクスクス笑いが止まらなかった。呆れた妻から、あな
た工場では働かないほうが良いわよ、こういうので酸とか浴びて絶対死んじゃ
うわよと脅かされた。もっともだと思った。

 2007年10月05日 記
 mixi日記から転載
 大村 浩一


散文(批評随筆小説等) どどどどどど Copyright 大村 浩一 2010-03-12 12:42:46
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