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水町綜助

   *


   凭れたなら



   鳥のように

   木の欄干は鳴いて



   帯のゆるんだゆかたのむねと

   あのうみは

   つながっているようだと



   どうやら

   いま音だけになった海が

   夜として

   潤って打ち寄せている





   糸電話になった私は



   あなたを呼ぶ



   床の間のセーフティボックスを
 
   開けたり閉めたりしていて


  
   振り向かない



   ヒンジの音がやっぱり鳥のようだよ



   張り詰められない



   耳はそばだて




  *




  二月の高台にのぼって

  梯子に手を掛ければ

  錆びた鉄棒の

  剥離した

  白い塗膜のうろを



    おお



  おお と



  風が渡っていくのです



  最後の一段をのぼり終え

  なだらかな

  ひろがるまちの薄布を

  ほそめて臨んだ逆睫を



  おお



  おお と



  風がからめて鳴るのです



  指のはら

  さす

  ひと欠けに両の手を

  開いて眺め風にあらう

  その隙を



  おお



  おお と



  風はすりぬけていくいとなんです



  それでこの手は

  いとひとつ

  捕まえられぬ手なのです




 *




 ただ流れた川筋を

 ひどく

 暇にかまけて

 土だとか砂だとか

 潅木だとか

 てきとうに拾ってうめ

 町へ流す



 町びとは

 商店の軒先から

 日差しに鼻から下だけをさらして

 口は半開きにして

 よく意味がわからずに

 茶色い濁流をみている



 ぼんやりとみている



 踏み切りのどちらかの手前で音が

 カンカン

 カンカン

 しらけた空に吸い込まれていくのを聞きながら



   ゝ



 小さな流れは

 何事もなく町を横切り

 やがて側溝に吸われてきえていくのだろう



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自由詩 ファイルの終わり Copyright 水町綜助 2010-03-09 16:02:32縦
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