桜前線
nonya


小さな後悔を
ひとつずつ折りたたみながら
冷たい雨の中を歩く

しつこい雨音を
ことごとく無視しながら
答えをクシャクシャに丸める

痩せた街路樹は
桜並木になろうとして
つれない空模様を見守っている

押し黙った蕾は
句読点を開こうとして
読み飽きた梢で戦慄いている

確かすぎる目盛りの上で
躊躇う季節の猫背を
時間の乾いた手は
容赦なく押してしまうから

もうすぐ
僕も咲かなければならない

今年も
必ず咲かなければならない

少しずつ重さを増す
冬枯れの記憶を背負ったまま
新たな乱痴気騒ぎを
始めなければならない

胸の奥の方から
せり上がろうとする桜前線を
煩わしく思いながら

南風のお節介な絵筆に
むりやり塗り潰されることを
密かに望んだ



自由詩 桜前線 Copyright nonya 2010-03-06 14:58:25
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