死にも詩にもならなかった断片二つ
佐々宝砂

僕の腕には骨のない子ども
僕の隣には乳房の三つある少女
骨のない子がくねりくねりとうごめくので
僕の両手は自由にならず
電車が揺れるたびよろけて
少女の乳房をわざとではなく肘打ちしてしまう

進行方向隣の車両では宴会の気配
今はまだ新鮮な肴と音楽
猥雑な野次と嬉しげな嬌声
進行方向反対の車両からは労働の気配
油臭い空気 規則正しく人に命令するピープ音
明滅する赤と青の光

そしてこの車両では春と秋の風みなぎり
椎の花 稲の花 桜花
びっしりと産みつけられた虫の卵
ふくふく匂う堆肥 やかましく鳴く雛たち
胞衣を食んでいる母牛

僕は口を使って
胸のポケットから水色の切符を引っぱり出す
行き先は「→いやになるまで西」途中下車無効

***

私たちは死ぬだろう
荒々しくも豊かな海に飲まれて
猛々しくも包容力ある雪に埋もれて
いやそんな美しい死は
もう私たちのものでない
でも私たちは死ぬだろう
突然の爆発に手足を千切られ血を噴き出して
悪意の閃光に灼かれて崩れて
いやそんな弾けるような死さえも
もう私たちのものでない

私たちは死ぬだろう
油くさい真っ黒な汚泥に浸かって
たっぷりの酸でのどと鼻を灼かれて
私たちを抱きとめる大地も海もなく
劇的な爆発も閃光もなく
死体が豊かな土壌に変わることもなく
ただ冷徹で無機的な化学変化のもとに
私たちの身体は変質してゆくだろう
破滅はぐずぐずとなし崩しに訪れるだろう
星への道は二度と私たちに還らないだろう

いっそその日が早くくればよい

願うことの罪深さを
罪深いとも思わぬままに
私たちは死ぬだろう



未完なので最初は未詩に登録しましたが、
批評禁止ではないので、
自由詩に登録を変更します。



自由詩 死にも詩にもならなかった断片二つ Copyright 佐々宝砂 2004-09-30 00:26:58
notebook Home 戻る  過去 未来