いたばさみ
あぐり



絵具を溶く指から香るあなたの匂い。だから時々描けなくなるの。


滲み出す画面の先に春があって たまらなくなるから青色を塗ろう


大好きなふたつのものを区別する、わたしの頭はひとつしかない


スイッチが一つだけでも欲しかった 昼は描くため夜は泣くため


ひとりきり画面に向かう瞬間に あなたの言葉は思い出せない


藍色がこびりついた指先を ほんとは舐めてほしかったのに


ひとりじゃないと描けないよ ひとりきりだと描けないよ


筆をおく、その度に呟いている あいしている。ただあいしている


いつの日か描けなくなるならその時は わたしの指を噛み千切ってしまえ


描けなくて泣くことよりも会えなくて泣くようになったわたしは、わたしは


純粋な恋をしているつもりです。 色にまみれて綺麗に汚れた


この先に何もないと言われても だから今は描いていたいの


この恋に何も重ねはしないから この絵にあなたも重ねはしない


一言、ただ一言くれるなら、「この絵、好きだ」そう呟いて、お願い。


髪の毛を撫でてるその手の重み感じ ほとり、と落ちてくわたしの強さ


怖くて哀しくて寂しくて痛くて それでも画面の前には、ひとり。


それでもさ、どんなに絵を愛しても わたしが眠れるのはあなたの右肩


絵皿に、溜まる粒子の煌めきが あなたと見た星のようです


ささやかな誇りを言わせて下さい 「向き合い続ける」「逃げ出しはしない」


四日ぶりにきみの顔見たら泣けてきた 理由なんか、知ってるだろ?


またわたし、きみに我慢をさせてしまう その分描くから、終わったらキスして。


描くことも愛すこともこの手では 届かないけど、だから生きてる


描いても、描いても、まだ届かない。 愛しても、愛しても、まだ愛し足りない。








短歌 いたばさみ Copyright あぐり 2010-02-24 23:51:20
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