大雨
たもつ
雨が魚の中に入る
滑らかな質感でバスが流れていく
タクシープールの人たちが性器まで濡らして
蝶番のついたドアの開閉に忙しい
窓に沿って座り
ベッドがあれば眠ってしまう
私はぴたぴたとした足音で
何軒かのお得意様をまわり
湿った手で印鑑を押してもらった
そのうちの数人は私が生まれたときには既に
生まれたことのある人たちで
名前を思い出せない人とは
いっしょになって名前を考えてあげた
側溝の近くで知らない女の人が
知らない犬を、ナナ、と呼んで
可愛がっている
よせばいいのにひっそりとその後を
物流会社の倉庫も流れていく
魚は煮つけに限る、と思い
何度も思ったけれど
そんな台詞
今までたったの一度も
言ったことがない気がする
鞄に入りきらない水が溢れ出してる
私も流れていく