大雨
たもつ

  
 
雨が魚の中に入る
滑らかな質感でバスが流れていく
タクシープールの人たちが性器まで濡らして
蝶番のついたドアの開閉に忙しい
窓に沿って座り
ベッドがあれば眠ってしまう
私はぴたぴたとした足音で
何軒かのお得意様をまわり
湿った手で印鑑を押してもらった
そのうちの数人は私が生まれたときには既に
生まれたことのある人たちで
名前を思い出せない人とは
いっしょになって名前を考えてあげた
側溝の近くで知らない女の人が
知らない犬を、ナナ、と呼んで
可愛がっている
よせばいいのにひっそりとその後を
物流会社の倉庫も流れていく
魚は煮つけに限る、と思い
何度も思ったけれど
そんな台詞
今までたったの一度も
言ったことがない気がする
鞄に入りきらない水が溢れ出してる
私も流れていく
 
 


自由詩 大雨 Copyright たもつ 2010-02-22 20:31:55
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