すきま、しみこませて
たりぽん(大理 奔)

叶わなくてもけして
忘れられない
行方を失ったものばかり
歩道のコンクリートブロックに
しみこむ、缶コーヒーのこぼれた汚れ
途中で読みあきた文庫本にいくつも挟まれたしおりの
とどかない、その先
汚いものは胸の底でゆっくりと渦巻き
美しいものはひかりのように乾いて
わたしのすきまを閉じようと
閉め忘れた窓辺の
カーテンをわずかに揺らす
まぶたを閉じていれば
昼夜を失うはずなのに
明るい先を求め闇に背を向ける
忘れるのではなく置いてゆく
もう二度と陽の射すことのないすきまに
星座のような名前をつけて
それはほんとうでした
ほんとうのまま
プラットホーム、柱の根元に
黒灰色にうずくまり
閉じられたまぶたのすきまに
読みあきてしおりが差し込まれ
とどかない、その先で
美しくも汚くもなく
ほんとうの私を置き去りに
いつかとどくさきのために
越えていくのです

できそこないの渡り鳥は
越えてゆくのです



自由詩 すきま、しみこませて Copyright たりぽん(大理 奔) 2010-02-21 00:24:07縦
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