バレンタイン・イブ
逢坂桜


   夫が言った。
  「今年のバレンタインは、なしでよろしく。
   おかえしが面倒だから」
   とてもとても、落ち込んだ。

   色恋とは無縁に生きてきた。
   友チョコが流行る何年も前に、女友達にチョコをばらまいていた。
   就職してからは、日ごろお世話になりっぱなしをネタに、
  「今後ともよろしくお願いします」と、
   ひとこと添えてくばっていた。

   だから。
   まったく自慢にならないけれど、
   バレンタインらしいバレンタインは、
   一昨年と昨年だけ、なのだ。

   お菓子会社の策略で、無意味な風潮で、
   きいた風なことを言っても、
   やっぱり、
   だいすきな人にチョコレートを渡したいのだ。

   でも。
  「おかえしが面倒だから」
   へこんだなぁ。

   あきらめの悪いわたしは、
   原価425円で、
   なんちゃって手作りチョコを用意した。
   おかえしがほしいんじゃない。
   だいすきな人がいるイベントを、
   たのしみたいのだ。

   だって、だって、

   せっかくおんなのこに生まれて
   だいすきなあなたに会えたんだから。
   


自由詩 バレンタイン・イブ Copyright 逢坂桜 2010-02-13 20:08:39縦
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染めしおもいで