無題(世界は二頭の象が〜)
カワグチタケシ

世界は二頭の象が支える巨大な円盤ではなく
真空に浮かぶ球体にかろうじて貼りついている
ざらざらとした薄い膜に過ぎない
と知った日から君は
旅に出る必要がなくなってしまった
それなのに
果てしないモンゴルの草原や
赤茶色に渇いたモロッコの土壁を
想うだけでどうしようもなく心が騒ぐのは

情熱は運命が心臓に灯す蒼白い炎ではなく
遺伝子に柔順にしたがうシステマティックな
脳内物質の化学反応に過ぎない
と知った日から君は
涙を流す必要がなくなってしまった
それなのに
夕暮れにひとり街をさまよう時
路地裏でふと嗅いだ洗剤の匂いに
たとえようもなく心が震えるのは


 今いる場所からそう遠くないところへ
 虹の袂をさがして
 涸れた泉の伝承を求めて
 科学を超えて
 たとえば
 一篇の詩をたよりに


自由詩 無題(世界は二頭の象が〜) Copyright カワグチタケシ 2010-02-11 01:19:33
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