オンナノコちゃん、さようなら
手乗川文鳥





月曜日
欲望の匂いがしてオンナノコちゃんは目が覚めた
窓辺に刺したガーベラは9ヶ月前からとっくに枯れてしまっている
乾燥した花びらは触れると粉になって
オンナノコちゃんは蝶々は綺麗じゃない、気持ち悪くて不潔だと思った



火曜日
オンナノコちゃんはテレビが大好きだからいつもリモコンを手放さない
今日は露草が背伸びをして欠伸をしてそうして瞳を潤ませたのを見た
オンナノコちゃんは黙ってじっとそれを見ていた



水曜日
サイケデリックな模様に誘われてパーティーへ出掛けた
オンナノコちゃんはミニスカートのお喋りを盗み聞きするのが大好き
奪い取ったその高い声を手のひらで弄んで襟元のフェイクファーに押し当てると
ため息のような声が潰れて死ぬから大好きなんです
オンナノコちゃんはそれに夢中だからダンスに目もくれない
知らない人の手を取るのはオンナノコちゃんの手に失礼だしそれに本当はね本当は本当なの
天井で踊り狂うのが本当でねなにも本当などないけれど本当はずっとオンナノコちゃんはただ一人とではなく誰も彼もと一緒に同時に踊れるときっと良いのにと思ってるから
手をいっぱい生やした神様になりたいの



木曜日
今日は黒いワンピースの気分。
オンナノコちゃんは生きるも死ぬも関係なく哀しいと思うし祈っていたい。



金曜日
顕微鏡が届く。



土曜日
顕微鏡を覗く。


オンナノコちゃんはレンズの向こうで二人のオンナノコちゃんに分裂していた
嬉しいオンナノコちゃんと憤るオンナノコちゃん
それからまた分裂
哀しいオンナノコちゃんと楽しいオンナノコちゃんと困ったオンナノコちゃんと眠いオンナノコちゃん
オンナノコちゃんは次々と際限なく分裂していって
どれもこれもオンナノコちゃんであるのにどれもこれも本当のオンナノコちゃんではなくって覗いているオンナノコちゃんは困ってしまってだけど自分は困ったオンナノコちゃんではなくて一人の完全なオンナノコちゃんだから困ってはいけないと思うけれどやっぱりどうしていいのか分からないからオンナノコちゃんはオンナノコちゃんは本当でオンナノコちゃんは一人だけだしだけどレンズの向こうにはたくさんのオンナノコちゃんが次々と生まれて顕微鏡の台から小さな小さなオンナノコちゃんが溢れてしまってとうとうオンナノコちゃんの小さな可愛いお部屋は小さな小さな小さなオンナノコちゃんでいっぱいになってしまって本当のオンナノコちゃんは小さな小さな小さな小さなオンナノコちゃんに飲み込まれて息ができなくて埋もれてしまって窒息してしまいそうよオンナノコちゃんそれは嘘



日曜日
小さな可愛いお部屋に黒い顕微鏡がぽつんとある
顕微鏡のレンズの向こうにガーベラの乾燥した花びらが粉になっている
花柄のミニテーブルにはメモが残されていて
そこには
オンナノコちゃん、こんにちは
と書かれている





私は裸のままでベッドに潜りこんだまま朝から夜へ滑っていく







自由詩 オンナノコちゃん、さようなら Copyright 手乗川文鳥 2010-01-29 17:11:09
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