メルヒェン
千月 話子

白いカーテンの向こう側
夜空が シャラン と鳴ったみたい

「あら、なんだか少し風が涼しくなってきたわ。」と
裾が広がるピンクのエプロン 軽くつまんで
フワリ 子供部屋に飛んで行く
ムテ・マリア(マリア母さん)

細く開いた窓を閉じて
ふと 振り返る目の端に
フルムーンと ほうきのシッポ
黒猫のライラの金色の目が
眠そうに あくびするのよ

物音にも気付かない ピピは
小さなベッドでスヤスヤと寝息を立てているので
ムテ・マリアは彼女の柔らかい頬に手を添えて
丸いおでこに キスをしてね
「おやすみなさい。」と
小さな羽根布団を 掛け直して
クルリ 出て行くのよ

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砂糖菓子の香りのするキスは ピピの夢の中
甘い 甘い ショートケーキになってね
赤いイチゴを お行儀よくスプーンですくって食べてから
ふわふわ の生クリームの上で軽く跳ねてみたり
スポンジとスポンジの間のクリームに隠れてる
黄桃まで 泳いで行って
パクっと 甘い幸福をかじってみたりしたの

 コロコロしてね クネクネしてね スイスイってしてね

猫のライラのしっぽを 掴んだら
高く 高く 天井まで飛ばされちゃって
背中が 何だかくすぐったいから
パタパタ 動かしてみたら
クリーム色の羽が 生えてきてね
レンガの煙突から屋根に上がって 街を見てたの

 オレンジ色の窓の明かりは
 影絵のように 家々の物語を映し出すの

黄色い月を横切る 小さな光りは 夢の妖精
星でできた 杖を シャラン♪
夜の幕に 星のダンス
流れ星 流れ星 いくつでも願い叶えて

本当は ひとつだけ
大好きな人達(だけど 大好きでない人達も)
みんな みんな 幸せでありますように と

ヘーゼルナッツ色の瞳閉じて 暖かくて
もう眠ってしまいそうで・・・・
妖精も手を振って・・・・バイバイって言ったの
「バイバイ。。。。」って

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ヒバリ啼く朝に 喜びの声
今日はピピの 5回目の誕生日

ムテ・マリアのおはようのキスは
ラズベリーの甘酸っぱい香りがしたわ
食卓では 父さんと兄さんがニコニコ笑ってた
ライラはしっぽを舐めながら
片目をつぶって ニャン と鳴いた
睫毛から小さな星砂が落ちたのを見たのよ

窓の外に2つの 虹の輪
メルヒェン と名づけて 絵を描くの
仕上げに 魔法の粉をかけてね
街の真ん中にある 本屋の
棚の奥に そっと隠して仕舞っておくのよ

いつの日か このメルヒェンを見つけた 誰か
祝福の夢を 見るよ
 幸せになってね 幸せに。。。。。

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目覚めたら 頭上に白い羽
バースデーケーキに印された名前を覚えていない

あの絵本は どこかにきっとあるような気がするのよ

ああ、、、、誰かピピの本当の名前を
      
      知りませんか?


自由詩 メルヒェン Copyright 千月 話子 2004-09-25 17:01:14
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