正しい森
都志雄

有って無いもの。
糾弾と依存とを行き来して、
「ぼくら」はどちらの虜囚だっただろう。
吹きさらしの冷たい玉座に
老いた王子は逃亡の果て 独り帰り着く。
だがそのとき再び、
冬のおそい夜明けにも似た清明さで、
遠い日に埋めた泉が湧き返る。

無くて有るもの。
未来を思い出す、のか、如何なる約束のグラウンドに立ち、
それとは知れぬ巨大な渦の中、
人知れず息づく立ち枯れに静脈を重ね。
呑まれるのか呑みこむのか支払期日よろしく。
だがそのとき初めて、
たかだか数千年の損益計算の、精緻に赤い袋小路に向かって、
憑かれたように慌てふためきながら、美しく飾り立てる亡霊たちの姿までもが見えたのだ。
流しへと捨てられる春秋の写像よ夥しく、
どのチャネルに生を切り結ぶべきかこの有料の鏡の中に漬かる。

「有って有るもの」
 ―やはり沈黙の
寒中の蒼天にまたひとつ出棺の警笛は鳴り響くテニスコートの脇。
それでもみな口々に軽やかに諳んじる自称森の歌。
迫りくるかつての有り難きもの。
いま
めぐり来った不可避の預言の体すらなして、
なぜこうも翼を広げるのだろう、
冬のおそい夜明けにも似た清明さで。





自由詩 正しい森 Copyright 都志雄 2010-01-10 21:29:23縦
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