正しい森
都志雄
有って無いもの。
糾弾と依存とを行き来して、
「ぼくら」はどちらの虜囚だっただろう。
吹きさらしの冷たい玉座に
老いた王子は逃亡の果て 独り帰り着く。
だがそのとき再び、
冬のおそい夜明けにも似た清明さで、
遠い日に埋めた泉が湧き返る。
無くて有るもの。
未来を思い出す、のか、如何なる約束のグラウンドに立ち、
それとは知れぬ巨大な渦の中、
人知れず息づく立ち枯れに静脈を重ね。
呑まれるのか呑みこむのか支払期日よろしく。
だがそのとき初めて、
たかだか数千年の損益計算の、精緻に赤い袋小路に向かって、
憑かれたように慌てふためきながら、美しく飾り立てる亡霊たちの姿までもが見えたのだ。
流しへと捨てられる春秋の写像よ夥しく、
どのチャネルに生を切り結ぶべきかこの有料の鏡の中に漬かる。
「有って有るもの」
―やはり沈黙の
寒中の蒼天にまたひとつ出棺の警笛は鳴り響くテニスコートの脇。
それでもみな口々に軽やかに諳んじる自称森の歌。
迫りくるかつての有り難きもの。
いま
めぐり来った不可避の預言の体すらなして、
なぜこうも翼を広げるのだろう、
冬のおそい夜明けにも似た清明さで。