記憶装置が壊れるまで
チアーヌ
あなたは電車で言った
こんなこと長くは続かない
続いたことはあるかと
わたしは答えられなかった
続いたことなどなかったから
答えはいっこだけ
答える必要などなく
いつか終わる
けれどだからといって
二人のきもちを
消したりできない
あなたはタクシーでわたしの手を握り
わたしはさっきまでふたりのあいだで
行われていたことを思い
びくん
と
体を震わせる
ふたりのあいだに
何もなくなることを
恐れてなどいない
記憶装置が壊れなければ
思い出すことはできるよ
わたしは覚えていることはできる
悲しいことに
たぶん忘れたりしない
でもそのころには
たぶん悲しくはないんだ
わたしの中には
あなたがまだいるよ
5年たっても10年たっても
びくん
と
体を震わせた記憶は
まだわたしの中にある
あなたは昔のあなたで
わたしも昔のわたし
だからあのことは
あそこで止まってしまったと同じ
もうどこにもないそのことは
二人の記憶の中だけに
記憶装置が壊れるまで
わたしたちのことはあるの
たくさんのあなたと
たくさんのわたし
たくさん流れた何か
そして押し流されたあとに残った小さな記憶の
核の部分をわたしはけして忘れない
続いたことなどなかった
続けたことなどなかった
続けられるはずもなかったこと
の記憶は
今もわたしの中に
それをときどき取り出してわたしはまだ涙を流す
続けられなかったこと
続かなかったこと
もう取り戻すことのできない安心
所有などできないのに
していると思うから
人は狂う
わたしは何も持ちたくない
わたしはなにもいらないの
だからわたしは泣く
何もない場所で
誰もいない場所で
どこにもゆくところのないまま
ぐにゃぐにゃした地面と
ぐにゃぐにゃした壁と
薄い空気
必死に呼吸を繰り返しながら
わたしは泣く
あなたはどこにいるの
あなたはどこへいったの
あなたはどこからきたの
あなたは
あなたは
あなたなんていない
あなたはほんとうはいない
どこにもいない
どこにも
ここはどこ
自由詩
記憶装置が壊れるまで
Copyright
チアーヌ
2004-09-22 20:08:02