国道246号線、寒い寒い日
ブライアン

最終電車。降車する人の群れ。渋谷駅へ向かうホームの光は消されている。
最終確認をする駅員の姿。

電車から降りる。込み合った車内ではうまく呼吸が出来ない。人の波から外れて、立ち止まり、呼吸をする。光が消されていくホーム。アルコールの匂いがする。嘔吐物がコンクリートに吐き出されている。酔っ払いは無重力。彼らの口から下は頭。吐いたはずのものも、地面には辿り着かない。彼らの頭にこびりついている。

横目で通り過ぎる人々。階段を降りる足音。
改札で見守る駅員は、光の消された街を眺めている。

国道246号線は眠らない。ベットタウンを通過するトラック。
突き刺さるような冷気。エンジン音。

加算されていくタクシーのメーター。
終電を乗り遅れた人のために走る、深夜バス。
いくつかの十字路。
右折すれば海へ。

誰の記憶だっただろう。
夜明け。海岸から昇ってくる太陽を、砂浜で焚き火で迎えた。
真っ暗な空。

ベットタウン。
寝過ごした乗客が、改札を抜けてタクシー乗り場へ向かう。

深夜料金。
振り向く運転手に目的を告げる。
何か話そうとしたまま、眠りに落ちる。

海へ。

翌朝、定時に仕事場へ向かう。
ネクタイを締める。朝のワイドショーを、天気予報を見る。

傘を持っていかなければならない。

いや、
それが幸せ。

嘘をつけ。

国道246号線。光の中で眠るトラック。
ラジオから聞こえてくるDJの声。
懐かしい音楽。
海へ向かっている時に聴いた音楽。
高校生の時だった。
誰もが歌っていた曲。失われた時、

ハンドルに膝がぶつかって起きた。
東の空が白みがかっているように感じる、
世界で一番深い暗闇。

道沿いには希望の光が灯されている。
働け、と。

始発。光が薄明かりの中に灯される。
白い息。光に反射する呼吸。

土竜と百姓は土を見て暮らせばよい。

車内アナウンスにスイッチが入る。
車両の先頭。光が灯される。

何もしないことが幸せ。
嘘をつけ。

来訪者。眺めるもの。
コンクリートに覆われた地球。
呼吸が建物に跳ね返る。
確立した個人。

ベット。

区分けされたマンションに、土地。
駐車場は一ヶ月2万円。

イヤホンに身を包み、
満員電車に乗り込む。
触れ合う体の表面。「私」と「あなた」は
触れ合うことはない。

そして、過度に緊張しあう、「僕ら」。
「君」と「僕」

みんなが傷つく姿を見たくない。
嘘をつけ。

「土人形のごとくバタバタ死ぬのが嫌で仕方なかった」。
「私はママの人形じゃない」。

線路。

ベットから仕事場へ。
夜から昼を結ぶ一本の手綱。
この一本の手綱をはなさず
陰暗の時間を過ぎる!

前後確認で見送った駅員。交代の時間が来る。
Yシャツのボタンを外し、
制服を脱ぎ、自宅へ戻る。
自転車で20分。

ああ、―そのような時もありき
寒い、寒い日なりき。


国道246号線を通過する。
車のエンジン音。
途切れないタイヤの摩擦音。信号の光。学校へ向かう子供の声。
革靴の音。スーツ姿の、人の、群れ。

寒い、寒い日。
再びやってくる今日。意味の選択を迫ってくる。
吐き出されるのは、白い息。







自由詩 国道246号線、寒い寒い日 Copyright ブライアン 2009-12-23 22:05:56
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